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名古屋地方裁判所 昭和37年(ワ)299号 判決 1976年4月27日

原告

神谷一英

右訴訟代理人

浦部全徳

外二名

被告

川島久吉

外一名

右両名訴訟代理人

島田新平

外一名

主文

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、原告

(一)  被告等は原告に対し別紙目録記載の店舗を明渡し、かつ、連帯して昭和三一年一月一日から同四七年七月三一日まで一か月金五万円、同四七年八月一日から右明渡ずみまで一か月金一五万円の各割合による金員を支払え。

(二)  訴訟費用は被告等の負担とする。

(三)  仮執行の宣言

二、被告等

主文同旨

第二、当事者の主張

一、請求の原因

(一)(1)  原告は、肩書住所地において、戦前から、別紙目録記載の木造瓦葺三階建店舗兼居宅(以下本件建物という)を所有している。

(2)  昭和二二年秋頃、原被告等および訴外野田隆一の四名は、原告において後記店舗を出資し、その他の三名はそれぞれ現金を出資することにし、これらの共同出資により、本件建物の一部である別紙目録記載の店舗(ただし、もとは約六〇坪のもの、後に除却等により同目録記載のようになつた)(以下本件店舗と称する)において洋品雑貨等販売の共同事業を開始した。

しかし、昭和二三年秋頃になつて、原告は右共同事業の営業者たることを止め、以後は被告等と野田三名が営業者となり、原告は単なる出資者たる地位において毎月の最低売上額を金一〇〇万円と定め、その基本売上額に対しては五パーセント、金一〇〇万円を上廻る売上額の分についてはその二パーセント、この合計額を原告において利益分配として受取る旨の匿名組合契約が原告と右三名との間に締結された。

(3)  その後、名古屋都市計画事業復興土地区画整理事業の進行に伴い、名古屋駅前より広小路通りの道路拡張のため、本件建物の正面南側広小路に面した部分は、奥行約三メートル、間口約二二メートルを取毀しになる予定になり、昭和三〇年頃からしばしば取毀しの請求を受け、もはや寸時の猶予も許されない事情となつた。そして、本件建物はすでに約六〇年前に築造された木造三階建建造物であり、原告が将来営業を営むに当り、名古屋市の要求どおと正面を取毀せば、建築技術上従来の木造建物は全部取毀し新築しなければならないこととなつた。

そこで、原告は昭和三一年一〇月一九日被告等(訴外野田は昭和二七年頃任意に脱退して立退いた)に対し右復興土地区画整理事業の施行というやむを得ない事由(商法第五三九条第二項)により前記匿名組合契約を解除した。

仮に右やむを得ない事由が認められないとしても、右契約は組合の存在期間を定めないものであつたから、以後六か月の経過により(同条第一項)昭和三二年四月一九日解除された。

従つて、被告らの本件店舗の使用権も消滅し、被告らにおいて本件店舗を明渡すべき義務がある。

(二)  仮に原告の右主張が認められないとしても、原告は昭和二三年頃被告らに対し本件店舗を賃貸したところ、原告は同四二年一〇月一七日本件口頭弁論期日に被告らに対し、被告らの無断改造等の保管義務違反、ひいては賃借人としての信頼関係の破壊を理由に右賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。即ち、被告らは昭和四二年二、三月頃それより少し前本件店舗の前記区画整理事業に基づく切取工事が終ると、直ちにその占有下にある本件店舗につき、無断で、(イ)天井を全部はがし、(ロ)壁を落し、(ハ)床土を約0.3メートル堀り起こし、(ニ)右店舗を中央で区切つて従来の一店舗を二店舗とし、(ホ)その他内装を一変させた。被告らは右改造工事が許されないことを十分承知していたので、あらかじめ原告より工事禁止の仮処分にあうことを予想し、名古屋地方裁判所に対し、原告から仮処分の申請があつても、仮処分命令を出さないようにとの趣旨の「緊急上申書」を出したうえ着手し、また、工事の規模も大々的なもので、極めて悪質と言わざるを得ない。原告としても放置できないので、勿論工事禁止等の仮処分命令を得て、昭和四二年四月四日その執行をした。ついで、被告らは特別事情による立保証を条件とする仮処分の一部(工事禁止部分)の取消を申請し、名古屋地方裁判所はそれが金銭補償で足りると認め、これを容れる判決をなし、その仮執行宣言付判決に基づき工事を再開続行し、遂に不法な右店舗の改造は行われてしまつたのである。そして、その規模は工事費金二五〇万円、工事日数四〇日間、常時工事人一〇名前後を要したものである。

(三)  仮りに右主張が認められないとしても、原告と被告らとの間の本件店舗の賃貸借契約は期間の定めのないものであるところ、原告は被告らに対し本件店舗の明渡について次の正当事由を有するので昭和四〇年一〇月二六日の本件口頭弁論期日において右賃貸借の解約の申入の意思表示をなしたので、その六ケ月後の同四一年四月二六日にこれは解約された。

(正当事由)

(1) 本件店舗がある本件建物は明治時代に建築され今日までにすでに六〇年を経過した古い木造三階建の建物であるところ、この建物の附近一帯は名古屋都市計画事業復興土地区画整理事業地区になつており、この事業の実施の一つとして本件建物の南側道路の巾が拡張されることになり、昭和四二年二、三月頃本件建物の南側の奥行約三メートル間口約二二メートルの部分が切取られた(従つて、本件店舗もその際南側奥行約三メートルの部分が切取られた)のである。

(2) 原告は本件建物の敷地を所有している者で右の切取以前において、本件建物において旅館営業の「弁天閣」(二、三階)、バー営業の「令嬢プール」(二階)、中国料理店の「笹島飯店」の三つを経営していた者であるが、右建物が場所柄(本件建物所在地は国鉄名古屋駅前の市内の一等地である)に似合わず古い木造であるため、騒音が激しく、旅館業の客室にも乏しく、その経営に主力をそそいでいた右の「弁天閣」は赤字続きの経営であり、このように土地利用の採算上等から右の切取の以前においてすでに、原告は、本件建物を取毀し、本件建物の敷地を含む土地上に高層鉄筋コンクリート造のビルの新築を計画していた。

(3) ところが、被告らが本件店舗の明渡を肯んじないため、右切取の後も、原告において本件建物の取毀しや右のビルの建築ができず、困却している。すなわち、右切取のため、原告は以前経営していた右の三つの店の経営ができなくなり、これらをすべて廃止し、昭和四二年八月頃から暫定的に切取後の本件建物において大衆スナツクパー「パブリツクハウス、コンパ」を開店し、今日にいたつているが、原告は、今なお、本件建物を取毀し、ここに高層ビルを建てる必要に迫まられている。詳言すると、本件建物の敷地の周辺に原告個人所有の土地および原告ほか六名共有の土地があるが、右の敷地の西側にはすでに原告が取締役をしている新名古屋ビル株式会社により高層ビルである新名古屋ビル南館が建築されており、原告や右会社はこの南館の東隣りに当る本件建物の敷地を含む土地上に同東館を建築する計画であり、この計画は、さきにも述べたように右敷地を含む土地の土地利用の採算上、また、本件建物についての消防上、衛生上、都市美観上是非実現すべきものであるからである。

(4) 他方、被告らはいずれも本件店舗をただ店舗としてのみ利用し、別に住宅を有するものであり、しかも被告らはすでに老齢であつて、ほとんど隠居者に近い生活を送るものであり、本件店舗を明渡すについては、苦痛もなければ生計の打撃もないのである。更に、被告らは他に店舗を求めて営業を続けることも極めて容易である。

(5) もしも以上詳述の諸事情のもとで、なおかつ正当の事由に満たないとされるならば、原告は相当の立退料を出すのもやむを得ないと考えているものであり、それは移転の便宜のためであるので、多くとも金二〇〇万円以下のものと信ずるのであるが、裁判所によりなお多少の増額をされるも原告はこれに応ずる用意があるので、昭和四〇年一〇月二六日の本件口頭弁論期日に、予備的に立退料二〇〇万円の提供の申出をした。

(四)  本件における金員支払を求める附帯請求部分は、本件店舗の賃料および又は賃料相当の使用損害金の支払を求めるものである。<以下、省略>

理由

1請求原因事実(一)(1)は当事者間に争いがなく、同(一)(2)のうち、昭和二二年秋頃原告主張の四名の者が、その主張のように共同事業を開始したことも当事者間に争がない。

2原告は昭和二三年秋頃匿名組合契約が締結されたと主張するが、この主張に沿う<証拠>はにわかに信用しがたく、他にこれを認めるに足りる証拠はなく、かえつて <証拠>によると、基本売上を一〇〇万円としてその五%を、売上がそれを超えたときはそれに何%かを追加して原告に利益配当することにしてはどうかという話がでたこともあるが、(尤もこの話が契約として成立したとまでは認めるに足りる証拠はないが)その話がでたのは昭和二二年秋頃にはじまつた前記の共同事業の開始の際のことであつたことが窺われるのであるから、原告の右主張は理由がない。

3進んで、被告らの賃貸借の主張につき検討するに<証拠>によると、昭和二三年秋頃、第二の二(二)で被告らが主張するとおりの経緯の下にその主張のとおりの賃貸借契約ができ、その後もその主張のとおりの推移をたどつたこと、その賃料が現在まで適法に弁済又は弁済供託されていることを充分に認定することができ、この認定に反する証人坂益雄の証言、原告本人(第一、二回)の供述はたやすく措信できず、他にこれを覆えすに足りる証拠はない。

4右の次第で、匿名組合契約の成立を前提とする同契約の終了に基く原告の主張は理由がない。

5進んで請求原因事実(二)について考えるに、本件店舗につき原告と被告らとの間に賃貸借契約が成立したことは前認定のとおりであり、被告らの無断改造等を理由とする原告主張のような解除の意思表示がなされたことは当事者間に争がないところ、<証拠>を総合すると次のとおり認定することができる。

名古屋都市計画事業復興土地区画整理事業の進行に伴い、名古屋駅前から広小路通りの道路拡張のため、本件建物の正面南側の奥行約三メートル、間口約二二メートルの部分が取毀しになる予定となり(このような予定となつたことは当事者間に争がない)、従つて、本件店舗の正面南側の奥行約三メートル、間口約九メートルの部分も切取られる予定となり、昭和三〇年頃から原告は右建物したがつて右店舗の所有者として被告らはこれの占有者として名古屋市からしばしば右の切取の要請をうけており、昭和四二年一月頃には同市にとつて右の切取はもはや一時の猶予も許されない事情となつたが、原被告ら間には本件店舗の明渡をめぐる本件の紛争がつとにおきていたので、右の切取の工事の実施につき原告、被告ら、市の三者間に話合がつかず、市はそのために苦慮していた。

昭和四二年二月二〇日頃、市の係員らのあつせんで、原告および被告らの各息子ならびに右係員らが観光ホテル弁天閣に集り会談し、結局、市と被告らとの三者間に、本件店舗の切取部分の移転は市の強制移転の方法によるのではなく市と関係当事者(所有者および占有者)とのいわゆる協議移転の方法によることにする、従つて、本件店舗の切取工株は市の直接施行とせず当事者施行とする、すなわち、原告においては本件建物の(したがつて本件店舗も含む)切取工事と本件建物の外装工事、本件建物のうちの原告使用部分(一階の一部および二、三階)の内装工事を施行する、被告らにおいては右切取に起因して必要となる本件建物のうちの被告ら使用部分つまり本件店舗の内装工事を施行する、これらの工事はできるだけ早く着手完了させることとする旨の合意(以下協議移転の合意という)が成立したこと、この合意に基き、その後、原告に対しては原告のなすべき右各工事による出資の補償を含めて本件建物の一部移転(切取)による損失の補償として約二、〇〇〇万円、被告らに対しては被告らのなすべき右内装工事による出資の補償を含めて本件店舗の一部移転(切取)による損失の補償として約四三〇万円がそれぞれ市から交付された。

また、この会談に先立つ二週間程前に原告により本件建物の二階三階部分の内部改装工事がすでに着手されていたためこの会談の当時すでに本件店舗の天井に穴があいたり、プラスタ、漆喰等が上から落ちてきたり、壁面が脱落したりしていたので、この会談の際、被告ら側から原告に対し、被告らにおいてその出資により、本件店舗の切取に際して、本件店舗の天井、壁等の張替や化粧工事、土間の修理、被告らの洋品等販売の営業にふさわしい店舗にするための店舗の修理、営業政策上表からは二店にみえ、内部では共通の店舗となるようにする仮設間仕切の設置、商品盗難防止のための表側にシヤツターを取付ける各工事を行いたいと申入れたこと、これに対し、原告は右のシヤツターの取付の申入についてははつきりとこれを承認した(この承認の点は当事者間に争がない)が、その他の申入については、一方、原告は前記の協議移転の合意に応ずべき立場にあつたので、むげにこれを断ることもできず、他方、さりとて、本件店舗の明渡の訴訟を提起中の原告としてはなるべく早く被告らにこれを明渡させたかつたため軽々に被告らに便宜を認めたくなかつたところから、原告はこれに対してはつきりした回答を示さなかつたこと、ついで、同月二三日頃本件店舗において、前記会談の際の関係者のほか杉田工務店経営の鬼頭駿が参集し、鬼頭において工事の設計図を示して被告らのなそうとする工事の説明をしたが、この説明に対しこのときも原告は前同様の理由で明確な態度を示さなかつたこと、しかし、すでに、前記の協議移転の合意ができ、本件店舗の切取工事も殆んど終り、また前記のように本件店舗の天井、壁も相当毀損されてしまつていたので、被告は従前同様の営業を継続するため、同年三月二二日頃から同年五月頃までの間に約二五〇万円をかけて、本件店舗につき天井をはがし、壁を落してこれらの張替、取替の工事をなし、床土を堀起して土間の修理とタイル張工事をなし、顧客誘引の営業政策上表よりは二店にみえ内部では共通となるような間仕切を設け、表側にシヤツターを取付ける各工事をなした。

その間、被告らにおいて万一の場合に備えて原告から工事禁止等を求める仮処分命令申請が申立てられた場合には特に慎重に審理されたい旨の緊急上申書と題する書面を名古屋地方裁判所に対して提出し(緊急上申書が提出されたこと自体は当事者間に争がない)、しかし原告において右趣旨の仮処分命令をえて昭和四二年四月四日これの執行をし、これに対し被告らが特別事情による仮処分命令の取消判決(ただし、工事禁止部分の一部取消判決)を得て(これらの点は当事者間に争がない)その工事を続行するなどの一幕もあつた。

原告においても昭和四二年二、三月頃前記協議移転の合意に基く原告のなすべき各工事を施行完了した。

かように認定することができ、<証拠判断略>。

右認定事実からすると、被告らのなした本件店舗の天井および壁の張替、取替工事は前記協議移転の合意に基く本件建物の切取に起因して必要となる本件建物の内装工事とみるべきであるから原告においてこれを非難することはできないものというべく、被告らのなした土間の修理とタイル張工事、間仕切設置工事についてはこれは右の合意の内容を超えるものとみなざるをえないが、しかし、第一に、右切取により本件店舗が狭くなるので被告らにおいて同店舗において従来同様の営業成績をあげていくためには右の工事による店舗の改良をはかる必要があつたこと、第二に、右の改良は本件店舗ひいては本件建物の価値を増すものであつてもこれを減ずるものではなく、また、右の工事は本件店舗の構造の変更をもたらすものとみられず、その原状回復が困難なものともいえないこと、第三に、右工事の申込に対し当初原告は煮えきらない態度をとつていたこと、最後に、被告のなした本件店舗の工事は総じてこれの切取とそこにおける営業の維持継続という差迫まつた事態に対処するため緊急にこれをなす必要があつたことがそれぞれ分り、これらの諸点に鑑るとき、被告らのなした前記の土間と間仕切とに関する工事を目してこれを本件店舗賃貸借の解除に値する非難されるべき行為とすることは到底困難であり、従つて、被告らに右の解除に値する保管義務違反ないしは信頼関係破壊の行為があつたということもできないから、原告の前記(二)の解除は許されず、同(二)の原告の主張は理由がない。

6次に、請求原因事実(三)について検討するに、同(三)中、本件店舗の賃貸借が期間の定めのないものであること、原告主張のような解約の申入のなされたことは当事者間に争がない。

同(三)(1)については、そのうち、本件建物がすでに六〇年を経た建物である点を除いて当事者間に争がなく、<証拠>によると、本件建物は建築後五、六〇年たつた相当古い建物であることが認められるけれども、同時に、<証拠>によると、昭和四二年になされた本件建物の前記の切取後も、被告らが本件建物内の本件店舗においてコンパルなる商号の下に衣類、かばん、洋品雑貨等販売の営業をつづけ、相当の成績をあげていること、原告もまた同建物内においてスナツクバー「パブリツクハウス、コンパ」を盛大に経営していること、従つて、本件建物がなお相当期間使用にたえうるものであることが認められ、これを覆えすべき証拠はない。

同(三)(2)については、そのうち、原告が本件建物の敷地を所有しており、昭和四二年の前記の切取以前に本件建物で原告主張の三つの店を経営していたものであることは当事者間に争がなく、<証拠>によると、昭和三七年頃から昭和三九年頃まで旅館「弁天閣」が赤字欠損で営業利益が上つていなかつたこと、このように土地利用の採算上の点等から、原告が右の切取以前においてすでに、本件建物を取毀し、その敷地を含む土地上に高層ビルをたてたいとの希望を抱いていたことを認めることができるが、同時に、<証拠>によると、被告らが、第二の二(四)で主張するとおり原告において「八芳園」「弁天閣観光ホテル」「グリルベンテン」「パブリツクハウス、コンパ」を経営し、これらの経営はみな順調であつて、原告が金銭的に相当余裕のあるものであることが認められ、これらの認定に反する証拠はない。

請求原因事実(三)(3)については、そのうち、原告が右の切取後に右の三つの店を廃止し、昭和四二年八月頃から切取後の本件建物において「パブリツクハウス、コンパ」を開店して今日にいたつていることは当事者間に争がないところ、<証拠>を総合すると、本件建物の敷地の周辺に原告個人所有の土地および原告ほか六名共有の土地があること、右の敷地の西側にはすでに原告が取締役をしている新名古屋ビル株式会社により高層ビルである新名古屋ビル南館が建築されていること、昭和四七年頃には土地利用の採算上原告や右会社によつてこの南館の東隣に当る右敷地を含む土地の上に同東館を建築する計画がたてられたこと、しかし、右の東館建築につき右会社の役員間に利害の衝突等から内紛が生じ、昭和四八年頃役員の一人である原告がその態度を豹変し右東館の建築に反対するにいたつたこと、本件建物につき衛生上、美観上はとりたてていう程の問題はなく、消防上の問題については、原告は本件建物の二、三階を自己の居住用に使用しており、この三階について火災の際の避難設備を完備するよう消防署長より要望されてはいるが、これは原告において三階の使用をやめるとか、これに右設備を完備するとか、その他適当な方策を講ずるとかして原告次第で適当に解決しうる問題があるにすぎないこと、以上を認定することができ、これを動かすに足りる証拠はない。

さらに、同(三)(4)、については、<証拠>によると、被告らは本件店舗を店舗としてのみ利用していて住宅は別であるが、被告らおよびその息子らは長年に亘り本件店舗における営業に力をそそぎ、「コンパル」の店名も周知せられて顧客も一応定着してきており、本件店舗における営業は被告らやその息子達にとつて重要な生計の根拠となつていること、被告らにおいて他に店舗を求めて移転することはなじみの顧客の問題や適当な場所における店舗確保の関係で必ずしも容易ではないことを認めることができ、これに反する証拠はない。

以上の認定、説示の事実からすると、原告は主として土地利用の採算上の点から本件店舗の明渡を求めているのに対し、被告らがこれを明渡すことは、被告らにとつてその生計に多大な打撃を与える重大な生活問題であることが分り、この点および右認定、説示のその他の事実関係からみて、本件店舗賃貸借の解約申入につき原告に正当事由があるとはとうてい認め難く、また、請求原因(三)(5)で原告が主張する立退料の提供の申出により右の正当事由が補強具備されると認めることも困難である。

7以上の次第で、原告の主張はいずれも理由がなく、本訴請求は失当として棄却を免れない。

8訴訟費用の負担につき民訴法第八九条を適用する。

(海老塚和衛 小林眞夫 川上拓一)

目録、図面<省略>

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